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日本の装身具ハンドリングゼミ 第8回

ここでは、会員のゼミでの感想や気づいた点、意見などを掲載します。


角元弥子さん

本日ハンドリングさせていただいた櫛について。

KF-04
本日お話しました内容の補足です。
一般的な、平滑に単色で塗って研いで仕上げる塗り以外のものを大きく「変わり塗り」と呼びますが、
もう少し絞り込む場合は「唐塗」or「津軽塗」or「若狭塗」で調べれば同じ系統のものを見ることができます。
例えば青森県漆器共同組合連合会の津軽塗のサイト 
現在作られているそれらの漆芸品よりも、今日拝見した櫛はかなり野性味のある仕上がりでしたが、基本的な技法は同じだと思います。(一番下の層に凹凸をつけ、異なる素材を重ね、最後を平らに研ぐことで、ランダムな模様を出す)

また、KF-02、KF-07、KF-08の3点のように、金の蒔地であったり、ルーペで見て蒔絵の金粉の粒が目視できるほど大きい(部分的にでも)のは高級品の特徴です。金粉の粒が小さいほど、少ない金で大きな面積をカバーできるので原価を低く押さえられます。
そのルールでいくと、KF-01の金色のサギの足は、粒がとても大きいため、他の部分とのバランスからいって金ではないかもしれません。

藤田嗣治はパリで日本のこういった美しいものがリスペクトされるのを見て、日本人であることの誇りを強烈に感じただろうと思います。晩年(戦後)は日本を追われるようにフランスへ戻ったという話を聞きますので、この蒔絵のコレクションを持ち続けていた事実に、少し切ない感じもしました。

なお、ハンドリングで時間が短くなりましたが、明治期のジュエリーのお話も興味深かったです。
近代史はジュエリーにかぎらず、日本人にとって認識の薄い分野だと思います。(学校の歴史の授業でも必ず端折られます)
「まだ分かっていない」ことが、「存在しない」ことになっている日本の明治期のジュエリーのこと、 周辺の状況もからめて、正しく知っておきたいと思いました。また次回楽しみにしております。


吉田 明泰さん

本日は、藤田君代遺愛の櫛10点、拝見させていただきありがとうございました。

漆芸は、東博の常設展などで鑑賞する機会はあったのですが、それはガラス越し。今回は薄手のビニール越しとはいえ、直接手にとって鑑賞することで、それぞれ大変繊細につくられているさまをよく理解できました。

『アジアのうるし・日本の漆(東京美術1996)』の江戸時代の漆芸の項に、「技術の極限を示すような高蒔絵ではあるが、近くで仔細にみると表面的な冷淡さとは違った、製作者の息遣いが感じられる」という記述があります。今回はルーペを使っての鑑賞できたので、櫛の歯を隔てて連続している図案や、顔や花芯などのこまかな描きこみに残る筆致に、まさに「製作者の息遣い」を感じることができました。

よほど力量のある画家の余技なのかと思いましたが、すべて粉本に基づき専門の蒔絵職人が描いたものとのこと。銘が入っていないのも、きっとそのためなんですね。

次回、どのような作品を手にすることができるか、早くも来年のことが楽しみになっています。

さて、「たがやさん」の件、現地での聞きかじりでいい加減なことを発言しました。

さっそく帰宅してしらべてみたところ、日本では「鉄刀木」が使われているようです。『精選版日本国語大辞典』には、「たがやさん【鉄刀木】」と記載されています。

一方、「鉄力木」について調べてみると、『小学館中日辞典』に、「tielimu【鉄力木】<植>タガヤサン、またその木材」と記載があり(tiedaomu【鉄刀木】については記載なし)、恐らく、いつのまにか「力」の字が「刀」になったのか?と愚考しました。

念のため、中国版ウィキペディア『百度百科』で検索してみると、「鉄力木」と「鉄刀木」はそれぞれ存在しているとのこと。

○鉄力木:「鉄力木、学名Mesua Ferrea 。鉄梨木、鉄栗木とも。(中略)中国雲南、広東、広西、インド、スリランカ、バングラデシュ等に分布」

○鉄刀木:「鉄刀木、学名はCassia siamea Lam。別名タイ山扁豆、ムンバイ黒檀、ムンバイ薔薇木、雲南黒心木、シャム羅槐、シャム羅決明とも。雲南で野生、その他南方各省で栽培されているほか、インド、ミャンマー、タイ等に分布」

おそらく、名称も分布エリアも近似しているため、現地でも混用されているようです。


八向 志保さん

今回のハンドリングゼミでは、藤田君代コレクションを拝見しました。
どのコレクションも美しく、状態も良く、江戸時代中期〜後期の日本の装飾文化の高まり、技術の成熟度を感じました。またこのような美しいものを収集していた藤田君代さんの審美眼も素晴らしいと思いました。
私が特に印象的に思ったのは、KF-02という作品になります。花や木々、鳥などのモチーフが描かれることが多い櫛において、人や船などがをモチーフとして川越えの状況が描かれていました。そしてその先に見える山…。講義では富士山または箱根の山かというコメントも出ておりました。先生からは、通常この時代には原画があり、それらを見ながら絵師が櫛に絵を書いていくのが一般的とのお話しもありました。どのような原画が使われていたのか、非常に気になっています。
また講義では、櫛がどのような木で出来ており、どのような塗料の組み合わせで色が表現されているのかについての多くのコメントもありました。皆様の知識は驚かされました。このようにみんなで謎を解いていくことも楽しいですね。次回のハンドリングも楽しみにしています。


鯉渕 みどりさん

先日ハンドリングゼミに初参加させていただきました鯉渕です。
このたびはどうもありがとうございました。
初めてでしたので緊張しながら伺いましたが、露木先生の分かりやすく楽しいご説明と、 実際手に取って拝見した作品の美しさにすぐに引き込まれました。
櫛の歯の部分にも絵柄があるものは、着用中は隠れてしまう部分にも関わらず緻密に描かれていて なんてお洒落なのだろうと感動いたしました。
小さく描かれたモチーフひとつにもその時代背景が読みとれることや 参加者の皆様のご意見も興味深く、普段私がジュエリーに接する視点とは違いとても刺激を受けました。

また、ライブラリーも少しだけ拝見しましたがとても興奮しました。
改めてじっくりと利用させていただきたいと思います。


藤井 正男さん

いつもセミナーに出席する事を楽しみしております。講師はもちろん、いろんな生徒さん達の奥深い知識に驚いております。今回のハンドリングゼミでの藤田画伯(レオナール・フジタ)の奥様の使用していた櫛、簪をゆっくり手に取って鑑賞しました。フランスで生活してい居た方なのでやはり何となく感覚違う様に思いました。岩崎先生の櫛歯の間髪の毛?のお話は大変興味が有り、いろんな見方が有るのが楽しく思いました。また次回、露木先生の講義、待ち遠しくしております。


青木 千里さん

藤田君代コレクションを見て

1) 技法で一番印象に残ったのは K.F-O4 の「源内櫛」です。
大ぶりな錫縁回しで端にスカラップが施されて目を引きますが、 べっ甲に似せた出来上がりに悩まされました。蝋色漆、金粉、 何かの箔を使ってべっ甲の透明感を表しているのだろうと推察 しましたが、謎だらけ。箔にシワが見当たりませんし、箔が剥げてその下にも何か塗ってあります。参加者であれこれ意見を 出し合っている内、漆芸に精通する方から「漆塗りの一技で変わり塗りの一種」と具体的な作り方などご説明がありました。
様々な情報、知恵、知識で謎が解けるのもこのゼミならではの醍醐味ですね。

2)全体を見ますと03、04、07は模様であり、その他は絵画 的表現。2つに分けられると思いました。コレクションは圧倒的に絵画の櫛が多いですね。
君代氏がこれらをフランスで入手したとすると、
a) 画家の感性が絵画的なものを好んだのか?
b) そもそも日本から海外に持ち出した外国人がわかりやすい記号とも言える模様ではなく、日本の絵画に同調する感性を持ち合わせ
ていて流出した櫛がやはり絵画的図柄が多数をしめたのか?
そんな疑問も浮かびました。

 
ゼミの数日後にとあるアンティークジュエリー店で藤田君代氏の所有だったブシュロンだったか、カルティエだったかのヴィンテージの品物
(記憶が曖昧ですみません)が売りに出されていました。やはり君代氏の遺産管理人からのオファーで引き取ったのだというお話でした。
櫛のコレクションがまとまった本来の形のまま露木先生の手元に託されたのは本当に幸運なことだと改めて実感した次第です。


土田 慶太さん

今回は藤田君代コレクションの櫛をハンドリングさせて頂きました。
奢侈禁止令の時代、結髪文化が発展し、女性は実用的装身具である櫛に装飾を求め、それに応える職人がいたということを手に取った作品から感じました。
櫛を画のような感じで集めていったのではないかと思うような藤田君代コレクション、面白かったです。


小宮 幸子さん

今回は藤田嗣治の妻、藤田君代のコレクションを拝見できるというまたとない機会に恵まれました。10点それぞれに異なる特徴や個性があるものの、完成度の高い作品ばかりで、藤田夫妻の美意識の高さをうかがわせるものでした。保存状態も良く、大切にされていたのでしょう。日本文化への愛情、尊敬、あるいは郷愁など、複雑な思いが感じられました。

ゼミの時間に皆様が感想で挙げていたKF-02川越之図蒔絵櫛ももちろん素晴らしかったのですが、木の地肌をそのまま生かした3点(KF-01, 05, 06)も印象的でした。深みのあるこげ茶は、背景となってその上に描かれた図柄を際立たせる役目を果たし、木目が作る模様やテクスチャーは、漆で塗られたものとは異なる深みと渋さを加えています。殊にKF-06四季の花生花図貝象嵌木櫛のタガヤサンには目を奪われました。櫛全体に入った細かな木目は淡い金色をしており、金の蒔絵で描かれているかと思ったほど美しいものでした。 

日本人の美意識の中には、必要以上に手を加えずに素材そのものの美点を生かす、という面もあるのではないでしょうか。べっ甲の装身具をはじめ、数寄屋造りの家屋、和食の理念などを考えてみても、共通するものを感じます。


奥田 文子さん

今回のハンドリングゼミは藤田君代コレクションということで、これまでとは少し趣きの異なるものでした。
いつもは、一つ一つに対して物語を感じながら見ていましたが、今回は君代さんというフィルターを通した一つの物語のある作品群でした。
一つ一つが櫛という完成度の高い工芸品で、身に着けたというよりも、鑑賞用に飾っておきたい作品ばかりでした。

特に心惹かれたのは、KF-02 川越之図蒔絵櫛と、KF-09 花菖蒲図蒔絵櫛です。
KF-02は、富士の見える金色の落ち着いた風景と、ユーモラスな人物や馬の対比が面白く感じました。
KF-09は屏風絵のようでした。たっぷりと余白を残した空間に花菖蒲の美しさが引き立ち、一輪のみに施された青い螺鈿が全体を引き締めていました。

また、KF-04の覆輪塗やKF-06のタガヤサンなども見ることができて勉強になりました。

貴重なコレクションをハンドリングさせていただき、ありがとうございました。


さとう あけみさん

このたびは大変芸術性の高い作品群を手に取って拝見できる貴重な機会を与えていただきました。
やはり世界的な画家との暮らしが偲ばれるような絵画的なものが多く、コレクションにその卓越した審美眼が感じられました。

ひとつひとつの櫛の中にストーリーがあり、その小さな空間に表現されている物語や、そのモチーフが象徴する深い意味など
、日本文化をよく知らないと理解できない意味などがちりばめられていて裏、表と何度もひっくり返しつつ感動しながら拝見しました。
ちいさな枠のなかにこれだけの表現ができる古い日本の芸術に触れ、ちいさい装身具の可能性をあらためて考えさせられました。

ゼミ中に逃してしまいました質問があります。
質問1.KF01の鷺とからすの関係、意味
2.KF4についてべっ甲に似せる意図があったと考えても良いでしょうか?
以上についてなにかご教示いただければ幸いです。

※さとうさんの上記質問について、お分かりの方があればよろしくお願いします。私も考えてみます。(露木)

余談:
昨年パリ装飾博物館でたまたま櫛の展示があったので見てきたことを思い出しました。

その時に見て感じたことはやはり同じようなことでした。うまく撮れていませんがその時の写真を添付してみます。
藤田夫妻はパリに住んでいた時によく蚤の市に出かけていたという話を聞いたことがあります。
日本文化の影響を受けたアールヌーボーなどが起こったことをみてもわかるように
古い日本の芸術作品は海外で大事にされ大人気だった様子が作品の保存状態の良さからも推測されます。

パリ櫛01 パリ櫛02 パリ櫛03 パリ櫛04


幸谷 由利子さん

印象に残った一点 KF-09

花は「貝の螺鈿」と「箔絵」のものいずれも花弁が「付描」で、姿が強調されています。
葉は「高蒔絵」で艶やかに表現されています。
蒔絵の技法が組み合わさり、技術的にも芸術的にも素晴らしいと思いました。

また、モチーフと構図から尾形光琳の「燕子花」を連想し、物語り的だとも思いました。

余白が花の躍動感を引き立てています。この余白が水辺であるならば花は「アヤメ」でもなく「ショウブ」でもなく、水辺で育つ「カキツバタ」と仮定できます。

光琳が題材にした伊勢物語(巻絵)にある

か ---------からころも
き ---------きつつなれにし
つ ---------つましあれば
ば ---------はるばる来ぬる
た ---------たびをしぞ思う

上記の和歌に重ねてみると、この櫛は、心の馴染んだ恋人に贈ったもので、余白の水辺が会えないという空虚を表しているのかな? などど想像してしまいました。


小岩 佐千子さん

今回もすばらしいものをハンドリングさせていただきありがとうございます。
藤田嗣治画家の奥様の所有していたものとのことで、改めて藤田嗣治画伯の人生も振り返ってみました。
藤田画伯の絵をこれまでより興味を持ってみることと思います。
今回ハンドリングさせていただいた藤田君代コレクションンについてですが、 今回特に印象深かったのはKF-01カラスと鷺です。とてもモチーフがとても描き込まれていて、臨場感あふれカラスの鳴き声が聞こえてきそうです。
この絵を描いた職人さんはどんな方だったのだろうか?と興味をおこさせる強さがあるものだと思いました。
それからKF−06ですが、ゼミの時も触れた方がおりましたが、花ではなく花器が白蝶貝で細工してあることが印象に残りました。余裕や遊び心を感じる一品と思いました。

以上です。いつもすばらしいものをハンドリングさせていただきありがとうございます。
次回も楽しみにしております。
どうぞよろしくお願いいたします。


中村 園子さん

今回は、藤田君代コレクション10点と数が少なかったので、じっくり何度も見ることが出来てとても面白かったです。
じっくり見ていると、いつもより疑問が出て来るものだな〜と思いました。

KF-01 の小鷺の櫛の経年変化も考えて銀ではなくスズの蒔絵にしたかもしれない職人の細やかさや、KF-4 の手の込んだ変わり塗りの職人の意気込み、楽しさなどが伝わってきました。

今回の10点全体をみてみると、自分で身につけたいかどうか、女性的な視点で集められている様な気がします。男性と女性のコレクターの違いも比べて見ると面白いと思いました。

いつもその時代の職人さんを感じられて、とても楽しいです。
来年の勉強会も楽しみにしております!


吉田 さやかさん

先日も大変興味深い櫛を見せていただき、ありがとうございました。
これまで、藤田嗣治氏の絵は存じていましたが、それ以上の事を知り得ることはなかったので、新たな視点から藤田嗣治氏また奥様の君代氏を知ることが出来、感動いたしました。
10点ほど拝見した様ですが、それ以上の数を見ていたように感じます。

中でも興味深かったのは、KF-06です。
四季の花、茶道がテーマの作品の様ですが、木目の美しさと白蝶貝をあしらった作り、そのテーマ性が印象深かったです。
藤田嗣治氏の絵に、中央に茶釜が描かれた藍染のお茶道具の暖簾の様なものがあり、嗣治氏のお気に入りだったようで、数点の絵に登場しているので、もしかしたら、この櫛は道具好きでもあった嗣治氏が君代夫人に贈られたのでは?と想像します。

また、KF-01のカラスとサギですが、このカラスは、ヤタガラスとのお話をいただき、この組み合わせの意味を調べた所、烏鷺(うろ)の争い/戦い = 囲碁 の異名と言うのが出てきましたが、ヤタガラスではなく普通のカラスの様なので違うのかな、と思っていますがいかがでしょうか。

全体的に見て、江戸好みの嗣治氏の息吹を感じる君代氏のコレクションだと思いました。
ご夫妻と日本の関係を考えると、必ずしも良い思いばかりではなかったはずですが、櫛を通し、藤田嗣治氏の日本への思い、君代氏とのご夫婦愛を感じます。
一つ一つにストーリーがあった様にも思いますので、お話を伺う術がないこと、非常に残念です。

装身具は、お持ちになった方の生き様が垣間見え、本当に興味深いです。

※露木より
丁寧な感想文ありがとうございます。
藤田の絵にお茶道具の暖簾のようなものが描かれているとのことですが、 その絵があったら見せてください。
なお、ヤタガラスの話もしましたが、KF-01の図柄は、ヤタガラスではなく烏です。




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